コンサルタントに必要な資質

答えよりも問いを立てることの方が遥かに難しく重要である理由

tsumakawa

1. 「答え」が重視される社会の構造

私たちは小さな頃から「答えを出す」ことに価値を見出すように教育されてきました。

学校教育においてはテストで正しい答えを導くことが評価され、受験では限られた時間の中で最短で「正解」にたどり着く力が問われます。ビジネスの世界でも同様です。問題に対して迅速に解決策を提示できる人が「優秀」と見なされ、成果として評価されます。

つまり、社会全体が「答えを出す力」を重視する構造に染まっているのです。

しかし、この構造には重大な欠点があります。それは「問いが適切であるかどうか」に無自覚になりやすいということです。どんなに優れた答えを出しても、そもそもの問いが間違っていれば、その解は現実を改善することに寄与しません。むしろ、リソースを浪費し、組織や人を疲弊させることすらあります。

2. 「問い」が本質を決める

問いは方向性を決定します。

売上を伸ばすにはどうすればいいか?」という問いを立てれば、マーケティング施策や営業強化に解が集中するでしょう。

しかし、「なぜ今の売上が伸びていないのか?」という問いを立てれば、顧客ニーズとの乖離、商品自体の競争力不足、価格戦略の誤り、あるいは組織内のコミュニケーション不足など、全く異なる論点に光が当たります。

前者の問いから生まれる解は「手段の強化」に偏り、後者の問いから生まれる解は「原因の解明」に繋がります。

この差は決定的です。問いの質が低ければ、どれだけ頭脳明晰な人間が集まっても、徒労に終わります。

問いの本質に光を当てた書籍として有名な「イシューから始めよ」でも触れられている通り、問いの質こそが全てを左右します。

3. なぜ人は「問い」を軽視するのか

それではなぜ、人は問いを軽視してしまうのでしょうか。それにはいくつかの理由があります。

(1)答えの方が目に見えて分かりやすいから

「答え」は成果としてすぐに可視化されます。レポートにまとめたり、会議で提案したり、数字として提示できます。一方で、「問い」は形のないものです。「なぜその問いを立てたのか」を説明するのは難しく、周囲も評価しづらい。したがって、短期的な評価を求められる環境では、問いよりも答えが優先されがちです。

(2)教育システムの影響

学校では「問いを立てる」ことより「既存の問いに答える」ことを訓練されます。入試問題は出題者が設定した問いに解答することを前提としており、「この問い自体が適切か?」を考える場はほとんどありません。そのため社会人になっても「正解を探す思考」から抜け出せず、「問いを立てる力」が育たないのです。

(3)問いは不安をもたらすから

問いを立てると、「解が見つからないかもしれない」という不安と向き合うことになります。解答を探すプロセスよりも、問いの適否を吟味するプロセスの方が曖昧で苦しい。人間は不安を避けたい生き物です。そのため「とりあえず解を出して安心したい」という心理に陥りがちです。

4. 問いの質が低いと起こる失敗

問いを軽視した結果、現場ではどんな失敗が起きているのでしょうか。

(1)局所最適に陥る

たとえば「コスト削減」を至上命題とした問いを立てた場合、短期的なコストカットは成功するかもしれません。しかし、長期的には品質の低下や人材流出を招き、事業基盤を崩壊させることがあります。本来の問いは「持続的に競争力を高めるために、どこに投資し、どこを削減すべきか?」であるべきです。問いの設定がずれると、解も危うい方向へと誘導されてしまうのです。

(2)真の課題を見落とす

ある企業が「なぜ社員のモチベーションが低いのか?」と問わずに、「どうすれば社員を鼓舞できるか?」だけを問えば、イベントや報奨制度などの施策に走るでしょう。しかし、根本原因が「経営陣の不透明な意思決定」や「不公平な評価制度」であれば、いくらイベントをしてもモチベーションは上がりません。問いの質が低いと、真の課題を見誤ることに直結します。

(3)実行不能な解に陥る

問いが現実離れしている場合、出てくる解も非現実的になります。例えば「どうすれば100%の顧客満足を実現できるか?」という問いは理想的ですが非現実的です。その問いから導かれる解は、コスト過剰や人材過労に繋がり、実行不可能になります。問い自体の現実性を見極めなければ、解は絵に描いた餅になるのです。

5. 良い問いを立てるための条件

では、良い問いとはどんな問いでしょうか。以下の3つの条件が考えられます。

  1. 本質を突いていること
    表面的な現象ではなく、背景や構造に踏み込んでいる。
  2. 行動に繋がること
    問いを立てることで、次の一歩を考える指針になる。
  3. 複数の視点を含んでいること
    一方向だけではなく、関係者の多様な立場から問いを立てている。

例えば、「なぜ顧客が去っているのか?」よりも、「顧客が去る背景には、私たちの商品・体験・価値提供のどこに断絶があるのか?」と問い直す方が、本質に迫りやすい良い問いだと言えます。

6. 問いの質を高める具体的な思考法

ここからは、問いの質を高めるための具体的な思考法を紹介します。

(1)「なぜ」を5回繰り返す

トヨタの「なぜなぜ分析」は有名です。表面的な答えに満足せず、「なぜ?」を繰り返すことで根本原因に近づきます。注意点はありますが、問いを掘り下げる訓練となるため、おすすめです。

(2)前提を疑う

問いの多くは無意識の前提に縛られています。たとえば「どうすれば社員をオフィスに戻せるか?」という問いには、「オフィスに戻すことが前提」というバイアスがあります。前提を疑い、「そもそもオフィスに戻す必要があるのか?」と問い直すことで、質が高まります。

(3)逆から問う

「どうすれば成功するか?」ではなく「なぜ失敗するのか?」と逆に問う。「顧客をどう獲得するか?」ではなく「顧客が去るのはどんな時か?」と反転させる。逆向きの問いは見落としていた盲点を浮かび上がらせます。

一方で、最初のうちは意識的にやらなければ思い至らないことも多いため、「逆から問う」ことを意識する必要があります。

(4)多様な視点を取り入れる

自分だけで問いを立てると視野が狭まります。異なる立場の人に意見を聞き、問いを洗練させることが重要です。経営層・現場・顧客の三者で問いを見直すだけでも、質は大きく変わります。

(5)問いを時間軸で変える

「今どうすべきか?」という短期の問いだけでなく、「3年後にどうあるべきか?」という長期の問いを重ねる。時間軸をずらすと、戦略と戦術の整合性が高まります。

7. 「解より問い」が重要な未来社会

AIの発達により、「答えを出すこと」の価値は急速に下がっています。検索すれば一瞬で答えが出てくる時代に、人間に残される本質的な役割は「問いを立てること」です。AIは与えられた問いに対しては驚異的な精度で答えを返せますが、「どんな問いを立てるべきか?」を決めるのは人間です。

未来の社会で差をつけるのは、答えを早く出せる人ではなく、問いの質を磨ける人です。問いの質が高ければ、AIや他者を最大限に活用できます。逆に問いの質が低ければ、どんなリソースを持っていても無駄に終わります。

8.「決断する」という価値

また、AIの普及に伴い「決断すること」の価値も同様に上がります。

問いを立て、答えが溢れる中において、より良い未来のための最善を選択することは容易ではありません。

同時に、選択した答えを正解にしていくことは人間にしかできない領域となります。

特にコンサルティングの現場においては、示唆出しや網羅的な選択肢の提示は、比較的誰にでもできる領域となりつつあります。

そこに留まらず、もう一歩踏み込んで、クライアントにとっての最善を考え抜いて提案し、共に走りきるだけの気概と責任が求められる場面が増えています。

もし、価値の出し方に迷うことがあれば、「自分だから立てられる問い」や「自分だから選べる選択肢」という観点で考えてみることをお勧めします。

9.まとめ

  • 答えは重要だが、それ以上に問いが重要である。
  • 問いの質が低いと、局所最適・課題の見誤り・実行不能な解に陥る。
  • 問いを高めるためには「なぜを繰り返す」「前提を疑う」「逆から問う」「多様な視点を取り入れる」「時間軸をずらす」などの思考法が有効。
  • AI時代には「問いを立てる力」が人間の最大の強みとなる。
  • 決断する力」もまた人間に残された大きな差別化余地

つまり、答えを求める前に問いを問い直すことこそ、私たちが学び、鍛え、実践すべき最重要スキルと言うことができます。

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経営コンサルタント
外資系コンサルティングファームで経営コンサルタントとして働く30代。 これから「コンサルタント」というキャリアそして人生を目指す学生、社会人に向けコンサルタントという世界で生き抜くための考え方やおすすめの書籍情報を執筆中。
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